金沢の冬がやってくると、街中に響く「ゴロゴロ」という雷の音が季節の到来を告げます。県外の方は夏ではなく、冬に雷が鳴るなんて!と皆さん驚きます。この雷を、地元では「ぶり起こし」と呼びます。その名の通り、寒ブリの漁が始まる時期に海からの冷たい風とともに鳴る雷で、漁師たちにとっては豊漁の予感を知らせる大切なサインです。この雷を聞くと、「冬が来たな」と感じると同時に、冬ならではの食文化や風景が思い浮かびます。
金沢の冬の味覚を語るうえで外せないのが、「かぶら寿司」です。以前の管理栄養士の〝食べまっし〟 日記〜その11〜にも登場していますが、お正月に合わせて毎年家で作る我が家のかぶら寿司(2月の料理教室に登場するのでお楽しみに)。
かぶら寿司は、かぶとブリ、そして米麹を使った石川県ならではの伝統的な発酵食品です。作り方には手間がかかりますが、その分、一口食べると広がる深い旨みは格別です。手前みそですが、私の自作かぶら寿司を毎年楽しみにしてくれているファンもいます。先日かぶを買いに直売所に行きました。籠の中いっぱいのかぶを見て、見知らぬお姉さま方に
かぶら寿司作るの?ついて行きたい!
私は主人が亡くなったのでもう作らなくなったんや
など色々と声をかけられました。それくらい地元の方に愛されている発酵食品ですが、最近はなかなか自分で作る人は少なくなったように感じます。
出来上がったかぶら寿司を食卓に並べると、家族みんなで「今年もよくできたね」と冬の到来を喜び合います。かぶら寿司は、単なる食べ物ではありません。年末年始の忙しい時期に手間をかけて作るその時間そのものが、私にとって大切な冬の風物詩なのです。一口頬張るごとに、金沢の冬の冷たい空気と、雷鳴の響き、そして笑顔が浮かびます。
冬の金沢を象徴するものといえば、もう一つ挙げたいのが「雪つり」です。これは、日本庭園や街路樹を雪の重みから守るために行われる金沢ならではの伝統的な技術です。我が家の小さい庭にも毎年、職人さんが来て雪つりを施してくださいます。枝ぶりを見ながら絶妙なバランスで縄を張るその様子には、いつも感心させられます。
雪つりの縄の張り方には、単に木を守るという実用性だけでなく、美的な要素も込められています。幾何学模様のように整った縄の姿は、雪が降る前から庭に冬の趣を与えます。そして、一度雪が降ると、縄と木々の間に積もる白い雪が、金沢の冬らしい静けさと美しさを引き立ててくれます。
冬になると、朝早く庭の雪の様子を確認するのが私の日課です。一晩で降り積もった雪が雪つりの縄にきれいに乗っていると、心が洗われるような気持ちになります。
金沢の冬は寒さが厳しく、雪の多い地域ならではの苦労もあります。しかし、その中で培われてきた文化や伝統は、寒さ以上に心を温めてくれるものばかりです。「ぶり起こし」が聞こえたら、今年もまた美味しい寒ブリが食べられる喜びと、金沢の冬の風景に感謝の気持ちが湧いてきます。そして、かぶら寿司を囲む食卓や雪つりの美しい庭を眺める時間が、冬の幸せを実感させてくれるのです。
冬の金沢には、自然とともに育まれた独自の風物詩がたくさんあります。地元の方は、この厳しい冬も素敵な風物詩があるな!とぜひ思っていただき元ちゃんハウスの文化祭へ、県外の方も来年2025年1月11日土曜日10時から石川県立図書館(話題の素敵な図書館です)のだんだん広場での元ちゃんハウスの文化祭にあわせて金沢を訪れ、冬ならではの味覚や風景を堪能してみてはいかがでしょうか?
(2024年12月19日)
元ちゃんハウス 管理栄養士
櫻井千佳
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