7月14日、元金沢市長の山出保さんがご逝去されました。山出さんは「金沢21世紀美術館」や金沢駅東口の「鼓門」の建設をはじめ、まちづくりに尽力され、現在の金沢市の礎を築かれました。
元ちゃんハウスにとっても山出さんには大変お世話になりましたし、大きな存在でした。夫が元ちゃんハウスの構想を抱えていた頃、私たちは何度か山出さんの職場やご自宅に相談に伺いました。夫が亡くなった後も、会のメンバー、吉村寿博さん(吉村寿博建築設計事務所代表)と共にご報告などで伺ったことを覚えています。いつも穏やかな笑顔で迎えてくださる姿が印象的でした。
山出さんの言葉が紹介されている『金沢らしさとは何か まちの個性を磨くためのトークセッション』(北國新聞社、2015年)の本の186頁に「しばらく前に日赤の副院長が訪ねてこられまして僕に突きつけたテーマが、死の恐怖に直面している人が人の心の安息を得る場所がほしいと。そのときに「金沢らしさ」を考えたいのでこれについて話してほしい。こういう注文がありまして、不十分なまでもしゃべったことがあります。」と書かれています。


元ちゃんハウスは死の恐怖に直面している人のための場を目指していたわけではありませんが、治らぬ病との闘病中の夫の心境はまさにそこに通じるものがあったのだと思います。そして、夫が求めた「金沢らしさ」の中に、自らの救いを重ねていたのかもしれません。
また、元ちゃんハウスの設立にあたり、越屋メディカルケア株式会社の宮崎典子さんから現在の元ちゃんハウスの建物の提供のお話をいただいたときのことです。
ワンフロアか一部屋の場所を探していた私たちにとって、とても立派で大きな4階建ての建物というありがたすぎるお申し出に、「私たちの力で、こんな大きな場所を維持していけるだろうか」と戸惑いました。そのとき相談したのも山出さんでした。
山出さんは、「新しいものを作るのではなく、あるものを上手に使っていくっていうのも金沢らしさや。あの場所はいい場所や」とおっしゃってくださいました。たしか元ちゃんハウス向かいの紫錦台中学校のご出身だったとも伺っています。この言葉は、私たちに大きな勇気を与えてくれました。
「金沢らしさ」という言葉には、無理せず、今あるものやご縁を大切にしながら前に進むという知恵と優しさが込められていたように思います。私たちが今、元ちゃんハウスを続けていけているのは、あのとき山出さんがかけてくださった言葉と、あたたかく背中を押してくださったおかげです。
元ちゃんハウス開館の日には、山出さんが夫、宮崎典子さんと共にテープカットしてくださいました。そのときの写真は、私たちにとって今も大切な宝物です。




そしていただいた「しなしなとやるまっし(ゆっくり、あせらずやっていこう)」という金沢弁のひとこと。法人設立時には、法人案内への寄稿もいただきました。


今も私たちは「ゆっくり、確かに、持続できること」を大切に、活動を続けています。山出さんが遺してくださった「金沢らしさ」の意味を噛みしめながら、希望の灯を消さぬよう、これからも歩み続けてまいります。
山出保さん、心より感謝申し上げます。ご冥福をお祈りいたします。
(2025年8月7日)

元ちゃんハウス 理事長
西村詠子